日本のゲーム業界は2兆円を超える市場に成長したが、2020年をピークにここ数年は右肩下がりとなっている。
そこで今回は日本のゲーム市場、ゲーム会社の最近の動向について、経営コンサルタントの美田和成さんにインタビューしました。
―:まず基本的なことを伺いたいのですが、お仕事について教えていただけますか?
美田氏:ゲーム会社やデータ分析会社の経営に関わる傍ら、A.T.カーニーというコンサルティング会社でメディア・エンタテインメント領域のコンサルタントもしており、ゲームを含めたエンタメ企業の成長戦略策定や組織作りのお手伝いをしております。 仕事柄、守秘義務がありますので、お話しできることは限られているのですが、本日はどうぞ宜しくお願いいたします。
―:よろしくお願いします。まずは日本のゲーム業界の現状について教えていただけますでしょうか?
美田氏:よろしくお願いします。現状を知る上でもまずはここ10数年の業界の流れを振り返りつつお話できればと思います。
2010年くらいからモバイルゲーム(ソーシャルゲーム)市場が急速に盛り上がりましたが、それまで5000億円程度だった日本のゲーム市場がモバイルゲーム市場の誕生・成長で2兆円まで伸びました。2010年代のゲーム業界はモバイルゲームの時代だったとも言えると思います。ちなみに欧米はモバイルゲーム比率が3割程度ですがアジアは5割を超えており、日本に至っては7割を超えてますのでモバイル市場の拡大はかなりのインパクトがあったことになります。
―:日本のゲーム市場規模の急拡大はモバイル市場の成長によるものなのですね。
美田氏:モバイルゲームをきっかけに生まれた会社は相当数あり、ピーク時では少なく見積もっても500社はあったと思います。その代表格がディー・エヌ・エーやGREE、Mixiに代表されるプラットフォーマーや、サイゲームスやアカツキなどです。
また、それまでコンソールゲーム中心の事業を行っていた大手ゲーム会社も、モバイルゲームの売上や利益率を目の当たりにしモバイルゲームに参入することになりますが、
モバイルとコンソールでは運用を中心として作り方が全然異なります。モバイルゲームに馴染むまでに時間のかかった会社もあれば比較的スムーズに参入できた会社もありまちまちでした。
―:たくさんの会社が生まれ、勢いのあった時期ですね。
美田氏:そうですね。2016年くらいまではかなり勢いがありました。しかし徐々にタイトル数が増えたことでユーザーの時間の奪い合いが激化するとともに、スマホの機能向上に伴いゲームの品質も向上する必要があり開発費が高騰していきました。
2010年頃であれば数千万だった開発費が、2018年頃には10~20億円規模にまで膨らみました。さらに2018年前後で海外(主に中華・韓国系)の大型グローバル配信タイトルが入ってきて徐々に日本タイトルのシェアがどんどん奪われることになりますが、外資系タイトルの開発費が3桁億円という事実に国内のゲーム会社は驚くとともに戦意喪失していった時期だったかと思います。
―:それほどまでにこの10~15年で開発費が膨らんでいったのですね。
美田氏:開発費が膨らむとともに、ヒット率も低下していきました。 成功に向けた初期的なハードルが月商1億円と言われますが、月商1億円を超えるタイトルの出現率が1%を切るなど、モバイル市場はハイリスク・ハイリターンに向かっていきましたね。またそのころになると、プロモーションコストも開発費と同額程度かける必要性もあったことから、既にユーザーを抱える既存IPを用いたタイトル開発に各社傾斜していく形になります。
新規IPは既存IPに比べヒット率が低く、プロモ―ションコストも多くかかるわけですので、合理的な判断ですよね。
現状、モバイルで新規IPに取り組む会社は、大手の一部と、モバイル系ですとサイゲームスさん、アカツキさんなどかなり限られてると思います。
2010年度に一気に誕生したモバイルゲーム会社ですが、このような背景もあり現状では一部の成功タイトルを持つ企業以外は撤退や倒産でかなり減ってしまっております。
―:モバイルゲームは当初、オリジナルタイトルの方が多かったかと思いますが、そこからIPに成長したものはなかったのでしょうか?
美田氏:どこまでをIPと呼ぶかは難しいところですが、IP化の定義を、ゲーム発で長期に運用を継続し、かつアニメやグッズなどのマルチ展開でユーザーとの接点を拡大し、ユーザーを増やしている、とするのであれば、モバイルゲームからはほとんどIPは生まれていない、と思います。
―:なぜIPは生まれなかったのでしょうか?
美田氏:IPとして成長するコンテンツ制作には、「斬新なコンセプト」や「キャラクター/ストーリー」、「高品質なクリエイティブ」、「継続的なマルチメディア展開」、など様々な要素が必要となりますが、特に初期のモバイルゲームはWEBサービスに近いコンテンツで、これらの要素を意識した開発になっていなかったことは一つとしてあるかと思います。
また、売上が下がると運用を終了してコンテンツとして終わり、というケースが多く、そもそも継続して取り組みIP化していくという意識はあまりなかったように思いますね。それよりも新しいもの出した方が売れるかもしれないのでどんどん出そうという空気感だったかと。
今誰もが知るIPは10年、20年、30年と続けてIPになっているわけで、初期開発で発展性のあるものを作ることに加え、継続することもIP化においては大事な要素ですよね。
―:そう考えると新規IP創出は難しい取り組みですね。既存IPを活用したゲームへの取り組みはどのような状況でしょうか。
美田氏:ゲーム業界全体として、モバイルゲームに限らずコンソールも含め既存IPでヒットするゲームをしっかりとつくるというトレンドになってきております。
既存IPをコンソール、モバイル、PCの複数デバイスで展開するとともに、映像やグッズ、リアル接点(テーマパークや2.5次元など)を拡大し、既存IPの価値を最大化する動きですね。モバイルゲーム時代の経験や昨今のゲーム発IPの映像化の成功などの事例を踏まえ、継続的に利益を生み出すのは既存IPという気付きが業界全体的にあったように思います。
―:既存IPのヒット率はいかがでしょうか。
美田氏:大手はやはりコンソールの開発力に安定感があり、コンソールは比較的安定的にヒットを出せているように思います。
一方でモバイルは先程のハイリスク・ハイリターンという性質が強くも、大手でもヒット率は決して高いとは言えないですね。もちろん当たれば大きいですが。
IPの特性やデバイス特性を鑑み、コンソール、モバイル、PC、どのデバイスで取り組むのかを検討していくという方向性かと思います。
新規IPの場合でもそうですが、収益的に安定性のある(大損しない)コンソールで出してみてその動向からモバイルゲームを出すか検討する、という方針の会社も多いですね。
―:なるほど。大きな流れとして既存IPを活用した事業展開に向かっているということですね。
美田氏:ここは難しいところでして、とはいえ新規IPもトライしないと将来のIPは生まれないためバランスが重要ですよね。まずは既存IPの価値を最大化し、その収益で新規IPにも一定チャレンジする、ということかと思います。
―:IPのマルチメディア展開という話がありました。ゲーム会社の場合、マルチ展開はあまり馴染みがない領域かと思いますがそのあたりの取り組み状況はいかがでしょうか?
美田氏:例えばカプコンさんは10年以上前からIPのマルチ展開を事業方針として謳っておりますし、バンダイナムコさんは昔からマルチ展開できる各機能を広く保有されていたりします。一つ言えることとしては個社毎に保有機能の幅は異なりますが、自社IPをゲーム以外の領域でも展開することを前提に事業戦略を考え始めているということかと思います。
また既存IPのゲーム化の方がビジネスとして安定しているため、多くのゲーム会社は自社IPのみならず他社IP(主に出版社系IP)を用いた開発に取り組むケースは増えてきております。
IPホルダーもこの辺りのIPのビジネス流れは強く意識されており、IPを預ける際に、ライセンシーの個々の機能(ゲーム、アニメ等)が強いことはもちろんですが、マルチ展開ができること、またそれを描けるIPプロデューサー人材がいる事もライセンシーを判断する基準となってきてます。
―:なるほど。自社IPだけでなく他社IPを用いたゲーム化も活発になってきていると。
美田氏:はい。とくに有力IPを獲得する上での競争が激しくなっており、前述のゲーム開発のみならずマルチ展開可能な機能やIPプロデューサーの重要性は増してきております。
他社IPの獲得によるビジネスではゲーム会社にとっての新たな競合も現れてきております。アニプレックスさんや東宝さんなどは強いアニメスタジオのブッキング力を強みとして制作委員会の中でも発言力を増しており、ゲームも含めたIP獲得に成功しております。リリースしたゲームもヒットを収めるなど成功事例も増えてきております。
一方で、IPホルダーもライセンシー機能を持ち始めており、自社でゲーム事業(パブリッシング、開発)やアニメ制作機能を持つ会社も増えており、その意味でもIP獲得の難易度は上がってきております。
―:IP獲得は新規のプレイヤーの参入含め競争が激化しているということですね。
美田氏:そうですね。そのような背景もありゲーム会社は並行してゲーム発の新規IPにも取り組まなければいけない、という課題もあるかと思います。
―:このような事業の変化に伴い、各社の組織体制の変化はございますでしょうか?
美田氏:モバイル興隆期とその後で大きく変わったと思います。
モバイル興隆期はモバイルゲームの利益率の高さ、開発・運用方法の違いからモバイルゲーム事業を従来のコンソール事業から切り出すケースが多く、大半のゲーム会社はデバイス軸(モバイル、コンソール、PC毎に事業を立てる)の組織体制でした。
一方で現在はモバイル市場が落ち着き、またデバイス間で開発の垣根が無くなったことや、前述の既存IPのマルチ展開や他社IP獲得の観点でIP軸、もしくはIPプロデューサーがデバイス別の事業部をマネジメントする体制に代わってきております。
―:なるほど。IP戦略を実行しやすい組織体制に代わってきているのですね。
美田氏:はい。ゲームやアニメで実務経験を積んだIPプロデューサーが主軸となり、IP獲得やIP戦略(エリア×デバイスで事業展開を設計)を描き、アニメ・ゲーム事業を牽引する、というスタイルが最近ではうまくいっているように思います。
―:その他、ゲーム業界における新しい動きはございますか
美田氏:新規参入という流れで、実は昨今ゲーム事業に参入する会社が増えてきております。
―:ハイリスク・ハイリターンと言われているゲーム業界への新規参入。なかなかチャレンジングな取り組みですね。
美田氏:はい。新規参入にはいくつかのケースがあります。
一つには前述の出版系IPホルダーがライセンシー機能を保有するという話がありましたが、収益が見込めるIPを見極めてゲームやアニメを自社でパブリッシング・開発するなどのライセンシー機能を持つ流れですね。
二つ目は出版系以外のIPホルダーなどで非連続的な成長を目指す場合、やはり当たったときのゲームの爆発力は魅力的であるためIPの価値最大化のための一環としてゲーム事業を立ち上げるケースもあります。
またテレビなどのメディアや広告業界なども、既存メディアの影響力が下がっていく中でIPを保有することへの関心・重要性が高まっております。その一環としてゲーム発IP創出や、IP価値最大化におけるゲームの爆発力にかけてゲーム事業に参入するというケースが増えてきております。ハイリスクは理解しつつも、ハイリターンを見込んだ意思決定ですね。
―:新たなプレイヤーの参入で業界が活性化すると良いですね。
美田氏:そうですね。これまではゲームはゲーム、その中でもコンソール系、モバイル系というセグメント化された事業体の中でビジネスが行われていたゲーム業界ですが、ここ数年、IPの価値を高めることに意識が向かう中で、ゲーム以外のアニメ、グッズ等も含めマルチにIP価値を高める動きが必要となってきており、他社IP獲得においても同じことが求められております。
それに伴いそれを実現するためのIPプロデューサーの重要性の高まりや、これらの人材が活躍するためのIP型の組織体制に移行するなど業界も再編の渦中ですね。
―:本日はどうもありがとうございました。